広報・情報紙
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2020/4/1発行
大田区文化芸術情報紙『ART bee HIVE』は、2019年秋から大田区文化振興協会が新しく発行した、地域の文化・芸術情報を盛り込んだ季刊情報紙です。
「BEE HIVE」とは、ハチの巣の意味。
公募で集まった区民記者「みつばち隊」6名と一緒に、アートな情報を集めて皆様へお届けします!
「+ bee!」では、紙面で紹介しきれなかった情報を掲載していきます。
アートな人:フラワーアーティスト 川崎景太さん + bee!
花の仕事に携わって30年以上。日本を代表するフラワーアーティストとして展示会や空間ディスプレイ、テレビ出演など、さまざまな角度から暮らしに息づく新しい花の文化を提唱する川崎景太さん。そんな川崎さんが花に対して確信を持つのは、「花はものではなくいきもの」であるということ。
「四季折々の環境のなか、たくましく咲き誇る草花を見ていると、『いのちの尊さ』『生命力の偉大さ』を感じざるをえません。私たちは自然から知覚のすべてを使い楽しむことを学び、明日を迎える喜びや勇気を得てきました。生きとし生けるものへの感謝の気持ちを持つことが何より大切であり、花を通して自然に恩返しをしたいと常々思っています。ですから、私の役割は、ただ花の美しさや華やかさといった面を伝えるのではなく、花から得られるさまざまな学びを皆さんに届けることだと思っています」
その表現法の一つとして、川崎さんの作品ではたびたび新鮮な植物と枯れた植物が一緒にいけられ、かつて見たことのない世界観で人々を魅了し続けています。
「空き地で立ち枯れた植物を、みすぼらしく汚いという人もいますが、これを成熟美あふれる姿ととらえるのかによって、物事の価値はまったく変わります。それは人間社会も同様だと思うんです。新鮮な植物は、瑞々しく活力に満ちた『青春期』であり、枯れた植物は、年月を重ね活力こそ徐々に低下していきますが、知識や知恵を蓄え、それが表情に現れる『成熟期』です。残念ながら現代の人間社会においては、その両極が交わらない方向に向いてしまっています。老いも若きも両者が互いにリスペクトし合い生み出される美しさを、花を通して感じていただく――そんな感動の分かち合いを通して社会に貢献できればと思っています」
「人間本位」にデザインした美しさではなく、「同じ地球上の仲間として」生きとし生きる生きるものが幸せになるデザインを追求する――。川崎さんの、花との向き合い方は一貫しています。
「人間というものが、地球上の食物連鎖の最上位にいる限り、植物にしても動物にしても、『人間より下』という価値がどうしても見え隠れしてしまう。人間中心の社会であるということは否めない事実ですが、同時にやはり私たちは、生きとし生きるものに『生かされている』という価値を持たなければならない。なぜなら人間も自然の一部だからです。一人ひとりがそうした価値を再認識することによって、さまざまな事象に対する見方も考え方も変わっていくのではないか――。こうした思いは、私の活動の基本となっています」
各々の花が持ち備えている特徴や才能、そして生きる姿勢を観察することで生まれ、ときめく私の無限の想像力。
その力を花からのメッセージとして作品にて物語ってみた。
《枯草の巣から生まれた春》
花材:スイセン、エノコログサ
冬、成熟して立ち枯れた植物が礎となり次なる命を育む。
《生きている花屏風・春》
花材:サクラ、ナノハナ、ミモザ、レンギョウ、ワスレナグサ、マメ、スイートピー、サイネリア、リュウココリネ
花が描かれている屏風を鑑賞していると、色、香り、環境などのイマジネーションが広がり知識以上の豊かな気持ちになれる。もう一つ、変化する花を見てみたい。もし、この花々が生の花だったら…という好奇心がこの作品になった。
各々の花が持ち備えている特徴や才能、そして生きる姿勢を観察することで生まれ、ときめく私の無限の想像力。
その力を花からのメッセージとして作品にて物語ってみた。
【KEITA+久保田一竹】
《色彩への賛歌》
花材:オクラレウカ、ヤマゴケ、ドライフラワー
大地に根づく色、天から降臨する光など、自然界から学ぶ‘色彩の喜び’をテーマにした作品。「一竹辻が花」の中に息づく‘自然の美’と植物を一体化させ、艶やかで幻想的な風景を創作した。草木がひっそりと隠し持つ精細な色合い。その豊かさを自由自在に楽しんだ久保田一竹氏の眼差しに敬意を表しつつ植物が持つ多彩な彩りへの感謝を表現した
【KEITA+ルネ・ラリックのガラス】
《向きを変えた葉》
花材:ガーベラ、グリーンネックレス、多肉植物
右に向かえば左が気になる。下がれば上がりたくなるのが、生きものの本能では。
「花のメッセンジャー」として、こころを伝え続ける川崎さん。そのルーツを語るに欠かせないのが、母・マミ川崎さんの存在です。
マミ川崎さんは、戦後2番目の留学生として渡米し、アルバイト先の花屋でフラワーデザインに感銘を受けてその技術を取得。帰国後は、産経新聞の記者として数年働いたのち、1962年に日本初のフラワーデザイン教室「マミフラワーデザインスタジオ(現・マミフラワーデザインスクール)」を大田区(大森・山王)に創設し、「植物との触れ合いを通して、日々の暮らしを潤いのある楽しいものにできる素敵な人を育む」という理念を掲げ、女性の自由や自立、豊かな心を育む情操教育を目指しました。
「全国から、『手に職をつけたい』『いつか教えてみたい』という女性の希望者が集まったそうです。当時は閉ざされた社会で、女性の社会進出が難しい時代でしたが、マミ川崎は男性も女性も社会に貢献すべきであると、仕事と家庭を両立する未来の人々の姿を思い描きながら、花を通した情操教育に一貫して走ってきたのだと思います。もちろんテクニカルなことも教えてはいましたが、何よりも花と接することによって、いのちの尊さや、生命力の偉大さといった気づきが生まれること、そして、それが人に対して思いやりを持つことの大切さや、子育て、家族愛にもつながるということを、開校当初から大切にしていたんですね」
そんな、日本のフラワーデザイン界のパイオニアであるマミ川崎さんのもとに生まれた川崎さん。さぞ植物との触れ合いの多い幼少期を過ごしたのだろうと尋ねると、意外にも「知っていた花はバラとチューリップくらい」というから驚きです。
「母からの花の“英才教育”は、全く受けていないんです。ただ生き物が好きな両親だったので、飼っていたニワトリのえさになる‘ハコベ’を無我夢中で探し回っていた。いま思えば、これが私の植物への関心の原点かもしれません。高校を出るとアメリカの大学の装飾園芸科で、日本でいうところの環境デザインを勉強していたのですが、途中で芸術方面に興味を持つようになり、芸大に籍を移して版画と陶芸を専攻していました。帰国後は陶芸家を目指して、陶芸工房で修行していたんですよ」
そんな川崎さんが、母のフラワーデザインに初めて触れたのは、マミフラワーデザインスクールの主催イベントにアルバイトで訪れたときのことだといいます。
「見て驚きました。フラワーデザインというのは、てっきり卓上装花やブーケのようなものの世界だと思っていたんです。ところが、実際は切り花だけでなく、石や枯れ草、ありとあらゆる自然素材を媒体にクリエイトする世界だと初めて知ったんです」
花の世界に入る決定打となったのは、そのあと友人と訪れた蓼科での出来事。早朝、雑木林を歩いてたいたときに見た1輪のヤマユリの姿に、川崎さんは心を奪われます。
「思わず凝視してしまいました。誰に見られるでもなく、なぜこんな場所で、こんなにも美しく咲いているのかと。人間であれば、『見てくれ』と誇張したがるところですが、そのあまりにも謙虚な美しさに感動したんですね。おそらく母はこういう植物の美しさを通して情操を養おうとしているのだろうと、そこでリンクしていくわけです」
いまや日本を代表するフラワーアーティストとして活躍する川崎さん。2006年から2014年までは、川崎さんご自身が、マミフラワーデザインスクールの主宰を歴任。現在は弟の景介さんが校長を務め、大田区の直営教室を中心に、国内・海外に約350もの教室を展開しています。
「主宰という立場でさまざまな方と触れ合う機会をいただき、いろいろと勉強させていただきました。一方で、一般の人に直接思いを届けにくいというもどかしさもあり、マミフラワーデザインスクールから独立して活動をさせていただいています。とはいえ、母であるマミ川崎とは、表現方法こそ違いますが、彼女が考えていた理念やポリシーは私の中にしっかりと刻まれています。私の仕事もやはり、植物を通した情操教育や感動の分かち合いを、業界を越えて伝えることだと思っています。
ある次元でいえば、形あるものというのはいずれは崩れるものですが、精神は永遠に残るものだと信じています。これまでマミフラワーデザインスクールの教育を受けた方は約17万人いらっしゃいますが、その精神性はインプットされて、それぞれが子育てや社会に生かされていると思うんですね。
私が与えられた、たかが100年の人生の中で何ができるかといえば、大それたことはできないとは思います。しかし、そうした中でも、花の業界に携わる人々含めみんなで手を取り合い切磋琢磨しながら、日本の花文化の明るい未来の礎を構築する一端を担っていきたいと本気で思っています」
川崎さんが現代社会に対して、危惧感を抱くことがあります。それは、人間が本来持ち備えている「五感」を使って生きるということに対する意識が、希薄になりつつあるということ。その要因として、デジタル文明の進化が大きく関与しているのではないか、と問いかけます。
「現代のデジタル文明の進化によって、『不便が便利』になった反面、『便利は不便』と感じることもあります。『五感』から生まれる知恵の応用や豊かな感情表現は、いつの時代も変わることがない『血の通った人間らしさ』です。デジタル文明自体を否定するつもりはありませんが、ただ、どの部分でデジタルを用いた合理化を図るのか、というしっかりとした棲み分けが必要に思います。残念なことに現代の人間の生活は、そのバランスが崩れているように思えてなりません」
川崎さんが生まれた1955(昭和30)年は、高度経済成長期にあたります。川崎さんは、当時を「人々が五感を生かしながら知識を得たり、その知識を知恵に変えたりということが日常茶飯事に行われていた」時代と評し、一人ひとりの「人間力」が生きた時代であったと振り返ります。
「私の幼少期を話すと、父はちょっと堅物なところがあって、子どもながらに、そんな父を笑わせようとヘンなことを言っても、面白いと思わなければ絶対に笑わないような人だったんです(笑)。それで、どうにか笑わせてやろうと絶えず考え続けて、ようやく笑ってくれたときというのは、もう何ともいえぬ達成感のようなものがありました。本当にささいなことでしょう? あと、私の学生時代の頃は携帯電話なんてありませんから、興味のある女性の家におそるおそる電話をかける前には、お父さんが電話に出たとき、お母さんが出たときなど、それぞれシミュレーションしておくんです(笑)。こうしたささいな一つひとつもやっぱり生きる知恵だったんですよね。
いまは本当に便利な時代です。レストランの情報を知りたいと思えばインターネットで簡単に情報が得られますが、やはり大事なのはそこで実際に出向いて食べてみるという、行動を起こすことではないでしょうか。そして、自分自身、それをおいしいと思ったのか、おいしくないと思ったのか、どちらでもないと思ったのか、よく観察してみること。そして、自分はなぜそれをおいしいと思ったのかについて想像をめぐらせ、その思いを自分なりにどんな表現に結びつけられるのかを考えてみることが大切だと思うんです」
川崎さん曰く、人間力を培うにあたり、まず大切にしなくてはいけないことは、自身の「好奇心」。そして、重要なのはその好奇心をもとに実際に「行動」に移して「観察」し、「想像」をめぐらせること。その先の出口としての「表現」があると語ります。
「私はこの“方程式”を、とても大切にしています。表現というものは当然一人ひとり違うもので、私で言えば、フラワーデザインやフラワーアートです。昔の版画や陶芸から、花へ出口としての表現だけを変えたということですね。物事に対しての好奇心を持ち、必ずそれを自分の目で、足で確認し、観察し、想像するという力は一緒です。『考える』ことって、とても楽しいことですよ。私自身、それが創作のイマジネーションにつながっています。そして、こうした力は誰もが欠けることなく備わっていたほうが、それぞれの人生はずっと豊かになりうると思うんです。つまりは、それぞれの表現が違っていても、その過程が一緒であれば、互いに共通の価値を見出し発信できる土壌があるということ。それは、頑なに信じていることです」
《自然の掟Ⅱ》
花材:チューリップ、カエデ
土に抱かれた地上を彩る植物は季節の訪れとともに枯れ、次なる命の栄養へと土に化す。そして、また新たな色を地上できらめかす。植物の無駄のない生き方は、私には決して真似できぬ完璧さを感じる。
【KEITA+岡本太郎の建物】
《滝のような涙》
花材:グロリオサ、ヘデラ
おおよそ40年間、空に向かってそびえ立っていた青い塔。太郎氏が産み残した芸術だ。その塔も老朽化が進み壊さざるをえなくなった。天の太郎氏に聞く。「どうすればよいのでしょう」「芸術は爆発だ」そのお言葉の裏に滝のような涙を見た。
取材の最後、川崎さんにとって「アート」とは何かを尋ねたところ、「いのちの尊さ」に真摯に向き合う川崎さんならではの興味深い見解が得られました。
思います。そうしてやはり『我がまま』に生きて表現し合うことが、アートなのだと思うんですね。そう考えると、私が発するある種のメッセージを、受け取られた方がどう解釈するかも、自由であっていいのだと思います。ただ、『アート』という分野自体を、なくてもいいものと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私はやはりすべてにおいて、バランスというのは大切だと思うのです。おいしいものがあれば、まずいものがあってもいい、上があれば下があってもいい。そうした気づきを与えてくれるアートの力というものが、これからの時代、ますます大切になるように思います」
そんな川崎さんが意識的に大切にしているのは、「楽しくアートする」ということ。その言葉の真意として、「自分自身が幸せじゃないと、人を幸せにすることは絶対にできない」という川崎さんの強い意思があります。
「犠牲心を持ちながら人を幸せにすることなど、できるとは思えません。やはり、まずは自分を大切にすること。そうして、自分が幸せだと思ったら、必ずその周りの人たちを幸せにすることができると思うんですよ。その周りの人たちが幸せになれば、今度はそのコミュニティーを幸せにすることができる。それがやがて国家を幸せに、世界を幸せにすることにもつながりうる。その順番を間違えてはいけないと思うのです。私でいえば、大田区で生まれたということもあり、自分を大切にしながら、大田区の花文化の発展を目指していきたい。それが東京都に広がり、業界や社会に広がっていくーーそうした一歩一歩を大切に、活動を続けていきたいと強く思います」
《花グラフィック》
花材:サクラ、チューリップ、オトメユリ、トルコギキョウ、サツマイモ
肉眼でとらえる花の美しさと、写真で見たときの花の美しさは私にとって、いささか異なったものに見える。花の持つ魅力を平面(写真)で見たときの美しさに意識を集中させ、いまだ見ぬ花の表情を視覚に訴えてみた。
《食器にいける》
花材:リュウココリネ、ツルバキア、アストランティア・マヨール、ミント、ゼラニウム(ローズ、レモン)、バジル、サクラ、グリーンネックレス、イチゴ
水が溜まりうる形はすべて花器になりうる可能性がある。碗を重ね、その狭間にできたスペースに花を、一番上の碗には食材を。
デモンストレーションでさまざまな作品を創りだす川崎景太さん。
1982年カリフォルニア芸術工芸大学卒。母のマミ川崎さんが1962年に創設した日本初のフラワーデザイン学校「マミフラワーデザインスクール」の主宰を歴任後、Keitaブランドを立ち上げ、数々のデモンストレーションほか、テレビ番組や書籍でのアートプレゼンテーションを手掛ける。空間インスタレーション、ディスプレイにおいても数々の賞を受賞。アーティストや企業などとのコラボレーション活動も積極的に行う。著書に『花は語る』(ハースト婦人画報社)、『素敵に花一輪』(講談社)など多数。
川崎景太さんとともに、「花のメッセンジャー」として活動する川崎ろまんさんと鈴木浩之さんによる音楽ユニット「AOIHOSHI」。全国各地をめぐり、風の音や水の音、時に嵐の音など、自然界から集めた音をサンプリングしコンピューターとキーボードを用いて、リズムやメロディを奏でる。植物から発せられる生体電流を音に変える「AOIHOSHI FLOWER VOICE SYSTEM」を開発し、川崎景太さんが出演するイベントで音楽を担当するほか、国内外のさまざまなイベント等で演奏する。
ピアニスト・作曲家の川崎ろまんさん(右)と、テレビアニメのテーマ曲等も手がける鈴木浩之さん(左)。
「植物との『共演』は一期一会。私たち自身、植物たちから大きな感動をもらっています」
公益財団法人大田区文化振興協会 文化芸術振興課 広報・広聴担当